こんにちは!
岡山市東区のさかい歯科クリニック、副院長の坂井です。
これまで2回にわたって、子どものガタガタの歯並び、歯科用語でいう『叢生(そうせい)』について解説してきました。
第1回では、乳歯のときはきれいだったのになぜ永久歯になるとガタガタになってしまうのか。
第2回では、顎の大きさや歯の大きさ、遺伝など、叢生が生じる原因についてお話ししました。
🔻第1回はこちら🔻
🔻第2回はこちら🔻
そして今回は、いよいよ治療編です!
保護者の方からよく聞かれるのが、
「子どもの歯並びがガタガタなんですが、何歳から矯正すればいいですか?」
「永久歯が全部生え揃うまで待った方がいいですか?」
「顎を広げれば、歯を抜かずに治せますか?」
「マウスピース矯正でも治療できますか?」
という質問です。
結論からお伝えすると、
子どもの叢生は、永久歯が生え揃う前から対応できる場合があります。
そして、適切な時期にスペースを確保することで、将来的な治療の選択肢が広がることもあります。
ただし、早く治療すれば必ず抜歯を避けられるわけではありません。
今回は、子どものガタガタの歯並びを「いつ」「どのように」治療するのか、研究論文を交えながら解説していきます!
不正咬合についてのブログは他にも掲載中です!
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私は日頃から小児矯正の診療に携わっており、2026年には歯科医師約140名を対象とした講演会にて、不正咬合をテーマに講演する機会をいただきました。今回も、不正咬合の一つである『叢生』についてわかりやすく解説していきます!

ガタガタの治療で最も大切なのは「スペースをどう確保するか」
まず、叢生の治療を理解するうえで大切なのは、前回までにお話しした「スペース不足」という考え方です。
歯が並ぶために必要な場所が足りなければ、歯は重なったり、ねじれたりしてしまいます。
前回のブログでは、歯並びを駐車場と車に例えました。
4台の車を駐車するためには、4台分のスペースが必要です。
もし駐車場が狭ければ、車をきれいに並べることはできません。

歯並びも同じです。
では、歯をきれいに並べるためには、どうすればよいのでしょうか?
基本的には、次のような方法を考えます。
① 歯列を適切な範囲で広げる
② もともとあるスペースを維持・活用する
③ 奥歯を後ろへ移動させる
④ 歯と歯の間をわずかに削ってスペースを作る
⑤ 必要に応じて抜歯を行う
もちろん、すべてのお子さんにこれらの方法が必要なわけではありません。
大切なのは『どの方法なら、その子にとって無理なくスペースを確保できるか』を考えることです。
そして小児矯正には、大人の矯正とは異なる大きな特徴があります。
それが、永久歯への生え変わりを利用できることです。
6〜12歳の「混合歯列期」が重要
子どもの歯並びを考えるうえで、ぜひ知っていただきたい言葉があります。
それが『混合歯列期(こんごうしれつき)』です。
混合歯列期とは、乳歯と永久歯が混在している時期のこと。
一般的には6歳頃から12歳頃までが目安ですが、生え変わりの時期には個人差があります。
この時期は、永久歯が次々と生えてくるため、歯並びが大きく変化します。
私は、この時期を『これから生えてくる永久歯のスペースを考える重要な時期』だと捉えています。
まず考えられるのが、歯が並ぶ場所そのものが不足しているケースです。
<6〜8歳頃:前歯の生え変わりを確認する>
この時期には、上下の前歯が永久歯に生え変わり始めます。
「下の前歯がガタガタに生えてきた!」
「永久歯が乳歯の後ろから生えてきた!」
という相談が増える時期でもあります。

ただし、この段階でガタガタしているからといって、全員に矯正治療が必要なわけではありません。
成長に伴いベロに押されて綺麗に並んだり、歯の萌出によって改善するケースもあります。
一方、明らかなスペース不足や萌出異常がある場合には、早めの対応が望ましいこともあります。
そのため、私は前歯が永久歯に生え変わり始めた頃に、一度歯並びを評価することをおすすめしています。
<9〜12歳頃:奥歯の生え変わりを活用する>
この時期になると、乳犬歯や乳臼歯が永久歯に生え変わっていきます。
実は、この生え変わりには、スペースを確保するうえで非常に重要な仕組みがあります。
それが、次に説明する「リーウェイスペース」です。
実は子どもには、もともと「隠れたスペース」がある!
ここは、今回のブログで特に知っていただきたいポイントです。
乳歯の奥歯は、後から生えてくる永久歯の小臼歯よりも、合計の幅が大きいことが一般的です。
つまり、乳歯から永久歯に生え変わることで、歯列の中に少し余裕が生まれるのです。
この差を『リーウェイスペース(Leeway space)』と呼びます。
例えば、乳歯の奥歯3本が並んでいた場所に、それより少し小さい永久歯3本が生えてくるとします。
すると、その差の分だけスペースが生まれます。
これが、子どもの歯並びを考えるうえで非常に重要なのです。
一般的な目安として、リーウェイスペースは片側あたり上顎で約0.9mm、下顎で約1.7mmと報告されています。ただし、実際の大きさには個人差があります。
特に下顎では、このスペースを上手に活用することで、前歯のガタガタを改善するための余裕を確保できる場合があります。

しかし、注意点があります。
このスペースは、何もしなくてもすべて歯のために残るわけではありません。
乳歯が抜けた後、第一大臼歯が前方へ移動すると、そのスペースが使われてしまうことがあります。
また、大きなむし歯で歯の頭の部分が大きくかけてしまったり、抜歯を余儀なくされてしまった場合にもこのスペースは失われます。
こう言った場合には『保隙(ほげき)』と呼ばれる対応などで、奥歯が前に倒れこまないようにすることがあります。
このように、すでに存在するスペースを失わないように管理することを『スペースマネジメント』と呼びます。
私は、小児矯正では「新しくスペースを作ること」と同じくらい、「今あるスペースを失わないこと」が重要だと考えています。
お子さんが低年齢の段階から、保護者の方から
『装置はまだ使えないと思うけど、ガタガタ予防の良い方法ないですか?』
と質問をいただくことも多くあります。私は
『まず3歳まではむし歯を作らないことが、最大の矯正治療です』
とお伝えしています。いろいろ装置に頼りたいお気持ちもよく分かりますが、まずは機能や歯列に影響するようなむし歯を作らないこと。そのために保護者の方に正しい指導を行うことが、正しい歯列獲得への第一歩だと考えています。
顎を広げれば、抜歯せずに治せる?
ここからは、保護者の方が最も気になる治療方法のお話です。
叢生の治療でよく使われる方法の一つが『歯列拡大』です。
歯列拡大とは、歯が並んでいるアーチを適切な範囲で広げ、スペースを確保する治療です。
例えば、上顎の歯列が狭く、横方向に余裕がないお子さん。
このような場合、歯列の幅を改善することで、前歯が並ぶためのスペースを獲得できることがあります。
ただし、ここで大切なのは、
「歯列を広げること」と「顎の骨を広げること」は必ずしも同じではない
ということです。
歯だけを外側に移動させて歯列を広げる方法もあれば、上顎の骨格的な幅の不足に対して、顎の骨そのものに働きかけて実際に顎を拡大する装置を使用する方法もあります。

どちらが適切かは、年齢や骨格、歯の傾きなどによって異なります。
また、矯正装置を使えば、好きなだけ歯列を広げられるわけではありません。
歯は顎の骨に支えられているため、無理に外側へ動かすと、歯を支える骨や歯肉に負担がかかる可能性があります。
治療後の後戻りにも注意が必要です。
特に下顎には上顎のような縫合はありません。すなわち上顎と同じように正中口蓋縫合を開く方法で骨格的に拡大できるわけではありません。
そのため、私は
「抜歯を避けるためなら、どこまでも広げてよい」
とは考えていません。
なぜ顎を広げるのか?なぜ歯列を広げるのか?
それは歯を並べるスペースを確保するためです。つまり『顎や歯列を広げることそのものが目的』ではないんです!
大切なのは、お子さんの骨格や歯周組織に合った、無理のない治療計画です。
スペースを確保する方法は顎や歯列を広げる以外にもあります。では、実際にその他の方法を見ていきましょう!
奥歯を後ろに動かしてスペースを作る「遠心移動」
歯が並ぶスペースを確保する方法は、歯列拡大だけではありません。
その一つが、『遠心移動(えんしんいどう)』です。
遠心移動とは、奥歯を後ろへ移動させることで、前方の歯が並ぶスペースを確保する方法です。
前回の駐車場の例えでいうと、駐車場の奥にある車を少し後ろに動かして、手前に余裕を作るようなイメージです。
特に永久歯列期の矯正治療では、症例によって遠心移動を検討することがあります。

ただし、ここにも注意点があります
奥歯は、どこまでも後ろに動かせるわけではありません。
奥歯の後方には骨や周囲の組織があり、移動できる範囲には限界があります。
また、子どもの場合には、まだ生えていない第二大臼歯、いわゆる「7番目の歯」の位置や萌出状況も考慮しなければなりません。
第二大臼歯が生える前に第一大臼歯を後方へ移動させる場合には、第二大臼歯の萌出への影響などを慎重に評価する必要があります。
だからこそ、遠心移動は単にスペースを作れるかどうかだけでなく、将来の永久歯の萌出も考えて計画することが大切です。

歯を少しだけ小さくする「IPR」という方法もある
もう一つ、スペースを確保する方法があります。
それが『IPR(歯間削合)』です。
IPRとは、歯と歯が接する部分のエナメル質を、適切な範囲でごく少量調整する方法です。

例えば、軽度のスペース不足がある場合に、歯の形態や歯周組織の状態などを考慮しながら検討することがあります。
ただし、IPRにも限界があります。
歯を無制限に削ることはできませんし、年齢や歯の種類によって適応も異なります。
特に小児では、永久歯の萌出状況やエナメル質の厚さなどを十分に考慮する必要があります。
そのため、IPRは「抜歯を避けるために、とにかく削る方法」ではありません。
あくまで、適切な診断のもとで選択する治療方法の一つです。
結局、抜歯せずに治せるの?
ここが、今回のブログで最もお伝えしたいところです。
「子どものうちに矯正すれば、将来は絶対に歯を抜かずに済みますか?」
という質問に対して、私は、
「抜歯を避けられる可能性はありますが、必ず非抜歯で治せるとは限りません」
とお伝えしています。
なぜなら、抜歯が必要かどうかは、ガタガタの程度だけでは決まらないからです。
例えば、同じ5mmのスペース不足でも、もともと歯列が狭いお子さんと、前歯が大きく前方に傾いているお子さんでは、治療方針が変わる場合があります。
また、歯列を広げたり、前歯を前方へ動かしたりすることで、ガタガタを改善できる場合もあります。
しかし、その結果として口元が突出したり、歯を支える骨の範囲を超えてしまったりするのであれば、必ずしも良い治療とは言えません。
抜歯・非抜歯を判断するときには、
- 歯が並ぶために何mmのスペースが不足しているか
- 上下の顎の大きさや前後的な位置関係
- 前歯の傾きや口元の突出感
- 歯を支える骨や歯肉の状態
- 永久歯の萌出状況と今後の成長
- 上下の歯の大きさのバランス
などを総合的に評価する必要があります。
また、上下の歯の大きさの不調和を確認するために、『ボルトン分析』を行うこともあります。
これは、上下の歯の幅を測定して、その比率を比較する分析方法です(ボルトン分析について詳しくは一つ前の記事参照)
上下それぞれの歯がきれいに並んでいても、歯の大きさのバランスが合わなければ、理想的な噛み合わせを作ることが難しい場合があるからです。
私は、矯正治療で大切なのは、『歯を抜かないこと』そのものではなく、『長期的に安定した、機能的で美しい歯並びを目指すこと』だと考えています。
もちろん、できるだけ健康な歯を残したいという気持ちは、私も同じです。
しかし、無理に非抜歯にこだわることが、必ずしもお子さんにとって最善とは限りません。
しっかりと診査診断を行なったのち、お子様にとっても保護者の方にとってもより良い選択をご提案したいと考えています。
早く矯正を始めれば、必ず有利なの?
ここまで読むと、
「それなら、できるだけ早く矯正を始めた方がいいのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、早く始めれば始めるほど良い、というわけではありません。
例えば、軽度の前歯のガタガタで、永久歯の萌出に伴って改善する可能性がある場合には、経過観察が適切なこともあります。
一方、明らかなスペース不足や異所萌出などがあり、放置すると問題が大きくなる可能性がある場合には、早期介入が望ましいこともあります。
また、一期治療を行っても、永久歯が生え揃った後に二期治療が必要になるケースがあります。
そのため、早期治療の目的や限界を理解したうえで、治療開始時期を決めることが重要です。
私は、保護者の方に、
「早く矯正を始めることよりも、適切な時期を見逃さないことが大切です」
とお伝えしています。
そのためにも、6〜8歳頃に永久歯の生え変わりが始まったら、一度歯並びの評価を受けていただくことをおすすめします。
もちろん、相談したからといって、すぐに矯正治療を始める必要はありません。
まとめ:子どもの叢生治療で大切なのは「スペース」と「タイミング」
今回は、子どものガタガタの歯並びをいつから、どのように治療するのかについて解説しました。
叢生の治療には、歯列拡大、リーウェイスペースの活用、遠心移動、IPR、そして必要に応じた抜歯など、さまざまな選択肢があります。
しかし、どの方法にも適応と限界があります。
特に混合歯列期には、乳歯から永久歯への生え変わりを利用して、スペースを維持したり、歯列の環境を整えたりできる場合があります。
だからこそ私は、
「永久歯が全部生え揃ってから考えればいい」と決めつけず、成長の途中から歯並びを評価すること
が重要だと考えています。
一方で、早期治療を行えば必ず抜歯を回避できるわけでも、二期治療が不要になるわけでもありません。
大切なのは、お子さん一人ひとりの歯の大きさ、顎の骨格、成長発育、永久歯の萌出状況を総合的に診断することです。
私は、小児矯正の目的は、単に今の歯並びをきれいにすることだけではないと考えています。
「これから生えてくる永久歯のことまで考え、将来につながる治療を選択すること」
それが、小児矯正の大切な役割だと思っています。
そして今回はあえて治療に用いる具体的な装置については言及しませんでした。ワイヤーを使う先生がいれば、私のようにマウスピースを得意とする先生もいます。私がお伝えしたかったのは、どの装置を用いるかよりも
『なぜこの子がガタガタなのか?』
『じゃあどうやってスペースを確保しようか?』
『そのために最適な装置はどれだろうか?』
という流れで考えることが大切であるということです。今回はその本質的な治療の考えをお伝えできていますと嬉しいです。
と、いうことで今回で「ガタガタの歯並び」シリーズは完結です!
これまで3回にわたって、
「そもそも叢生とは何か?」
「なぜガタガタになるのか?」
「いつ、どのように治療するのか?」
についてお話ししてきました。
お子さんの歯並びについて気になることがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
岡山市東区のさかい歯科クリニックでは、岡山市東区をはじめ、赤磐市や瀬戸町、西大寺など周辺地域のお子さんの歯並びについてもご相談を承っています。
矯正相談をすることと、矯正治療を始めることは別です。
お子さんの今の状態と、これからの成長を一緒に考えていきましょう!
🔻🔻ガタガタで抜歯矯正を行なった私自身の体験談はこちらから🔻🔻

岡山市東区・赤磐市・瀬戸内市周辺で、お子さんのガタガタ・叢生・小児矯正について気になることがありましたら、ぜひ一度さかい歯科クリニックにご相談下さい。
【さかい歯科クリニック 小児矯正ページはこちらから。ガタガタの症例も多数掲載しています】

参考文献
1. American Academy of Pediatric Dentistry. Management of the Developing Dentition and Occlusion in Pediatric Dentistry. 2024.
https://www.aapd.org/research/oral-health-policies–recommendations/management-of-the-developing-dentition-and-occlusion-in-pediatric-dentistry/
2. International Association of Paediatric Dentistry. Management of the Developing Dentition.
https://iapdworld.org/management-of-the-developing-dentition/
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9109585/
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https://cir.nii.ac.jp/crid/1572261549551204352?lang=en










