「私も受け口だから、子どもにも遺伝したのでしょうか?」
「家族に受け口はいないのに、どうしてこの子だけ?」
「口呼吸や舌の癖も受け口の原因になるの?」
お子さんが受け口になっていると、保護者の方からこのような質問をいただくことがあります。受け口(反対咬合)には、
確かに遺伝や骨格的な要因が関係します。しかし、
「受け口=遺伝」だけではありません。
実際には、
- 上顎・下顎の成長
- 歯の生える方向
- 噛んだときの顎の動き
- 舌や唇などお口の機能
- 呼吸や生活習慣
など、さまざまな要因が複雑に関係しています。
※受け口が自然に治る可能性や治療を始める年齢については、以前の記事
「子どもの受け口は自然に治る?何歳から治療を始めるべき?」
で詳しく解説しています。
私は日頃から小児矯正の診療に携わっており、2026年には歯科医師約140名を対象とした講演会にて、「反対咬合の診断」をテーマに講演する機会をいただきました。

今回は「何歳から治療するべきか」ではなく、『そもそもなぜ子どもが受け口になるのか?』という「原因」に絞って、小児矯正に携わる歯科医師が解説します。
そもそも、受け口は「下顎が大きい」だけではありません
「受け口」と聞くと、
「下顎が大きくなりすぎた」
「下顎が前に出ている」
というイメージを持たれるかもしれません。
もちろん、下顎の成長が強いことが原因となる場合もあります。しかし実際には、
上顎の成長が小さいために、相対的に下顎が前に見えているケースもあります。
さらに、顎の骨格には大きな問題がなくても、歯の傾きや噛み方によって受け口に見える場合もあります。つまり、
「受け口」というのは原因ではなく、さまざまな原因によって現れた“結果”なのです。
ここを理解することが、子どもの受け口を考えるうえで非常に重要です

子どもが受け口になる6つの原因
原因① 遺伝・家族歴
まず考えられるのが遺伝的な要因です。
顎の大きさや形、上下の顎の位置関係、顔の成長パターンなどには、遺伝的な影響があります。そのため
「お父さんが受け口だった」
「お母さんが矯正治療をしていた」
「祖父母に受け口の人がいる」
といった家族歴は、お子さんの受け口を診断するうえで大切な情報のひとつです。
実際に、文献的には
重度の骨格性の受け口のうち約70%が家族内に受け口の人がいた
との報告もあります。(参考文献:Watanabe M, Suda N, Ohyama K. Mandibular prognathism in Japanese families ascertained through orthognathically treated patients. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2005;128(4):466–470. doi:10.1016/j.ajodo.2004.09.018.)

しかし、ここで重要なのは、
「親が受け口だから、子どもも必ず受け口になる」わけではない
ということです。
反対に、ご両親に受け口がなくても、お子さんが反対咬合になることもあります。
遺伝は重要な要因のひとつですが、遺伝だけですべてが決まるわけではありません。
原因②上顎の成長が不十分
子どもの受け口を考えるうえで、ぜひ知っていただきたいポイントです。
受け口を見ると、どうしても下顎に目が行きます。
しかし実際には、
「下顎が出ている」のではなく、「上顎が十分に前へ成長していない」
ことによって受け口になっている場合があります。特に低年齢であればあるほどこれに当てはまることが多く、小児矯正においては上顎に注目すべきだと私自身も強く感じています。

上顎と下顎はそれぞれ異なる成長をします。
そのため受け口を診断するときには、
「下顎がどれくらい出ているか?」
だけではなく、
「上顎がどの位置にあるのか?」
をセファロと呼ばれるレントゲン写真や顔貌を踏まえて見ることが非常に重要です。
原因③下顎の成長が強い
もちろん、反対に下顎の成長が強いことが原因になる場合もあります。
特に骨格的な要因が強いお子さんでは、成長とともに下顎の前方への成長が目立ってくることがあります。
ここで難しいのが、
子どもの顎はまだ成長途中である
ということです。
現在の歯並びだけを見て、その子が将来どのような骨格になるかを100%予測することはできません。
そのため、骨格的な受け口が疑われる場合には、現在の噛み合わせだけではなく、成長を継続的に確認していくことが大切になります。当院では、小児矯正を始める前には、『手』のレントゲンも撮影して成長の予測を行っています。

『歯の矯正で手!?』
と患者様からも質問を頂くことがありますが、これは手の『手根骨』や『骨端軟骨』といわる骨の状態から
・成長のピークはまだ来ていないか
・いつ頃成長のピークがやってきそうか
を予測しているんです。「もう身長はこれ以上伸びないかもね…」と残念な報告をしないといけない場合もあったりするんです。笑
原因④前歯の生える方向や角度
顎の骨格には大きな問題がなくても、前歯の生える方向によって受け口になることがあります。
例えば、
上の前歯が内側に傾いている
場合です。
上の前歯が内側へ生えてくると、本来は上の前歯が外側にあるはずの噛み合わせが反対になってしまうことがあります。
反対に、下の前歯の位置や傾きが関係する場合もあります。
このように「歯」が主な原因となっている受け口と、「骨格」が主な原因となっている受け口では、同じように前歯が反対になっていても意味が異なります。
原因⑤噛むときに下顎を前へずらしている
これは保護者の方には少し分かりにくい原因かもしれません。
本来の顎の位置では大きな受け口ではないのに、
お口を閉じると下顎が前に誘導されてしまう
お子さんがいます。
例えば、上の前歯が内側に傾いていると、そのまま噛もうとすると上下の前歯がぶつかります。
すると、その歯を避けるように下顎を前へずらして噛むことがあります。

このようなタイプは「機能性反対咬合」などと呼ばれます。
また、顎を前に出す癖があるお子さんをよく見かけます。
見た目では同じ「受け口」でも、
本当に骨格的に下顎が前にあるのか?
噛むときだけ下顎が前に出ているのか?
を見極めることが非常に重要です。
原因⑥舌・唇・呼吸など「お口の機能」
歯並びは、歯と顎だけでできているわけではありません。
歯の周囲には、
舌・唇・頬
などがあります。
これらの筋肉から歯には日常的に力が加わっています。この力のバランスが崩れると、顔の成長方向にも影響を及ぼし骨格性の受け口を助長しかねないとされています。
そのため、
- 舌が普段どこにあるか
- 飲み込むときに舌をどのように動かしているか
- 唇を自然に閉じられるか
- 鼻呼吸ができているか
- 口呼吸になっていないか
など、お口の機能も確認することがあります。そして、そのお口の機能の原因が
鼻詰まりや気道の問題など耳鼻科疾患
にある場合も少なくありません。ですので当院では、問診の際に
『鼻詰まりや耳鼻科の受診歴はありますか?』
と質問させていただくことがあります。これも、受け口の矯正治療をしていく上で重要なチェック項目だからです。
ただし、ここは非常に大切なポイントですが、
「口呼吸だから受け口になった」
「舌の位置が悪いから受け口になった」
と単純に決めつけることはできません。
受け口は骨格・歯・成長・機能など、複数の要因が関係していることが多いため、総合的に評価する必要がありますし、先にあげた遺伝的な要因も踏まえて多角的に評価していく必要があると考えています。
「遺伝」と「生活環境」、どちらが重要?
結論として、
どちらか一つだけで考えないことが大切です。
子どもの受け口は、
遺伝的要因 × 成長 × 歯の位置 × 顎の機能 × お口の環境
などが組み合わさって現れている可能性があります。
例えば、同じ「前歯が反対」という状態でも、
Aさんは「前歯の傾き」が主な原因。
Bさんは「噛むときの下顎のずれ」が主な原因。
Cさんは「上下の顎の成長バランス」が主な原因。
ということがあります。
だからこそ、
「受け口の時はこの装置を使う」
という考え方ではなく、
「なぜこの子は受け口になっているのか?」
を考えてから治療方針を決めることが重要なのです。

子どもの受け口で歯科医師が確認していること
では実際に受け口のお子さんを診察するとき、どこを確認するのでしょうか。
当院では、前歯の噛み合わせだけではなく、
① 骨格
上顎・下顎の位置や成長バランス
② 顔貌
横顔、顎の突出感、顔の左右差など
③ 歯並び
前歯の傾き、奥歯の噛み合わせ、永久歯が生えるスペースなど
④ 顎の動き
噛んだときに下顎が前方や左右へずれていないか
⑤ お口の機能
舌・唇・呼吸・飲み込み方など
⑥鼻詰まりなど耳鼻科疾患の既往
口腔機能の発達不全の原因が鼻や気道にないか
⑥ 成長・家族歴
年齢や成長段階、ご家族の骨格的特徴など
といった項目を総合的に確認します。
受け口という「結果」だけを見るのではなく、その背景にある「原因」を探す。
これが非常に重要だと考えています。

岡山市で子どもの受け口が気になる方へ
原因によって治療方法も変わります
受け口の原因が違えば、当然、考えるべき治療方法も変わります。
歯の傾きが中心なのか。
噛み方に問題があるのか。
上顎の成長が関係しているのか。
下顎の成長を長期的に観察する必要があるのか。
お口の機能にもアプローチした方がよいのか。
これらによって治療方針は異なります。
つまり何度も言いますが、
「受け口を治す装置は何ですか?」
より先に、
「なぜ受け口になっているのですか?」
を考えることが大切なのです。

治療を開始する年齢や自然に改善する可能性については、前回の記事で詳しく解説しています。また、具体的な治療装置の選択については次回以降の投稿でご紹介する予定です。
岡山市で子どもの受け口が気になる方へ
子どもの受け口は、
「自然に治るか」「すぐ治療するか」の二択ではありません。
まず、
なぜ受け口になっているのか。
今は治療する時期なのか。
それとも成長を観察する時期なのか。
これを判断することが大切です。
さかい歯科クリニックでは、お子さんの歯並びだけでなく、顎の成長や噛み合わせ、お口の機能なども確認しながら小児矯正の治療方針を検討しています。
「3歳児健診で受け口を指摘された」
「永久歯が反対に生えてきた」
「いつから矯正を始めればいいか分からない」
という保護者の方も、まずはお気軽にご相談ください。

【さかい歯科クリニック 小児矯正ページ】

まとめ
子どもの受け口には、
- 遺伝・家族歴
- 上顎の成長
- 下顎の成長
- 前歯の生える方向
- 噛むときの顎の動き
- 舌・唇・呼吸などのお口の機能
など、さまざまな要因が関係しています。
つまり、
「親が受け口だから子どもも受け口になった」
と単純に考えることはできません。
そしてもう一つ大切なのが、
「原因が違えば、治療方針も違う」
ということです。
受け口という結果だけを見るのではなく、
「なぜこの子は受け口になっているのか?」
を考えることが、小児期の反対咬合を診断する第一歩です。
受け口が気になる場合には、まず一度ご相談ください。






